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東京地方裁判所 平成5年(ワ)7175号 判決 1996年3月26日

甲事件原告(丙事件被告、以下、原告西山という。)

西山由紀夫

乙事件原告(丙事件被告、以下、原告中馬という。)

中馬巖

右両名訴訟代理人弁護士

藤原弘子

坂口公一

小林弘明

甲、乙事件被告(丙事件原告、以下、被告会社という。)

株式会社ジャパン・スイス・カンパニー

右代表者代表取締役

松下資雄

右訴訟代理人弁護士

小林七郎

山田宰

主文

一  被告会社は、原告西山に対し、金五六万四四〇〇円及びこれに対する平成五年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告会社は、原告中馬に対し、金一二三万二五〇〇円及びこれに対する平成五年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らは、被告会社に対し、連帯して金五三一万七二五五円及びこれに対する平成五年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告ら及び被告会社のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、これを三分し、その一を被告会社の負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、一ないし三項につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の請求

一  原告西山(甲事件)

被告会社は、原告西山に対し、金七〇九万一五〇〇円及び内金六〇九万一五〇〇円に対する平成四年五月二一日から、内金一〇〇万円に対する平成四年四月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告中馬(乙事件)

被告会社は、原告中馬に対し、金二三三六万一六三四円及び内金九七九万二〇〇〇円に対する平成四年四月一一日から、内金二〇〇万円に対する平成四年四月一八日から、各支払済みまで年五分、内金一一五六万九六三四円に対する平成三年一二月二九日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

三  被告会社(丙事件)

原告西山及び同中馬は、被告会社に対し、連帯して金六〇〇〇万〇二五七円及びこれに対する平成五年一一月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告会社は、コーヒー機械の輸出入等を目的とする会社である。

2  原告中馬は、昭和五三年四月三日、訴外株式会社南インターナショナル(以下、南インターナショナルという。)との間で雇用契約を締結し、同社の従業員として勤務していたが、昭和六〇年四月一七日、被告会社が設立されたのに伴って同年五月一日、被告会社に移籍し、被告会社の代表取締役社長に就任したが、平成四年三月三一日をもって代表取締役を退任し、同年四月一〇日、被告会社を退職した。

3  原告西山は、昭和五四年八月一日、南インターナショナルとの間で雇用契約を締結し、同社の従業員として勤務していたが、昭和六〇年五月一日、被告会社に移籍し、被告会社の専務取締役に就任したが、平成三年一一月二二日をもって辞任し、平成四年五月二〇日、被告会社を退職した。

4  原告西山及び同中馬らは、昭和六三年八月二五日、厨房機器の輸入販売等を目的とする株式会社アルツ(以下、アルツという。)を設立し、原告西山が同社の代表取締役に就任した。

アルツは、大阪市南区(以下、略)に本店を有し、同所において、喫茶店及びコーヒーマシンのショールームを開業したが、営業不振のため、平成二年三月一五日に解散した。

二  本件は、原告中馬(乙事件)において、被告会社に対し、(1)退職金、(2)持株売買代金、(3)貸付金(不当利得金)の支払を、原告西山(甲事件)において、被告会社に対し、(1)退職金、(2)持株売買代金の支払を、それぞれ求め、被告会社(丙事件)において、原告らに対し、連帯して商法二六六条一項四号・五号に基づき、損害賠償を求めた事案であり、その請求原因事実は、以下のとおりである。

1  原告中馬の請求原因(乙事件)

(一) 退職金 金九七九万二〇〇〇円

被告会社は、昭和六〇年五月一日、原告中馬が、南インターナショナルから被告会社に移籍した際、同原告に対し、南インターナショナルでの勤続年数と被告会社でのそれを通算し、被告会社の退職金規定に基づいて退職金を算定し、被告会社においてこれを支払う旨約した。

そうすると、被告会社が原告中馬に対して支払うべき退職金は、次の計算式のとおり、九七九万二〇〇〇円となる。なお、その支払期は、原告中馬が被告会社を退職した平成四年四月一〇日である。

(勤続年数) 一四年

(支給率) 一四・四

(基本給) 金六八万円

(計算式) 六八万円×一四・四=九七九万二〇〇〇円

(二) 株式代金 金二〇〇万円

原告中馬は、平成四年四月一七日、被告会社に対し、同原告の保有する被告会社の株式四〇株を額面(一株五万円)で売り渡したので、右売買代金は、金二〇〇万円である。なお、その支払期は、売買契約の日である平成四年四月一七日である。

(三) 貸付金(不当利得金) 金一一五六万九六三四円

原告中馬は、平成二年三月六日、訴外株式会社第一勧業銀行(以下、第一勧銀という。)渋谷支店から、金一七〇〇万円を、利息年七・五パーセント、損害金年一四パーセント、平成二年三月から同一二年二月(一二〇回)まで毎月二七日限り、金二〇万一七九二円宛て(ただし、初回は一七万二三六一円)、割賦金の支払を一回でも怠ると、期限の利益を喪失し、残元金を一時に支払う、旨の約定で借り受けた。

同原告は、平成二年三月六日、被告会社に対し、金一三五〇円(ママ)を右約定と同一の条件で貸し付けた。

ところが、被告会社は、平成三年一一月二七日の支払を最後にその後割賦金の支払をしておらず、残債務は、金一一五六万九六三四円となっている。右支払期限は期限の利益を喪失した平成三年一二月二八日である。

仮に、右貸付金が商法二六五条に反し、無効であるとしても、同原告は、被告会社に対し、不当利得金として右同額を請求する。

2  原告西山の請求原因(甲事件)

(一) 退職金 金六〇九万一五〇〇円

被告会社は、昭和六〇年五月一日、原告西山が、南インターナショナルから被告会社に移籍した際、同原告に対し、南インターナショナルでの勤続年数と被告会社でのそれを通算し、被告会社の退職金規定に基づいて退職金を算定し、被告会社においてこれを支払う旨約した。

そうすると、被告会社が原告西山に対して支払うべき退職金は、次の計算式のとおり、六〇九万一五〇〇円となる。なお、その支払期は、原告西山が被告会社を退職した平成四年五月二〇日である。

(勤続年数) 一二年一〇月

(支給率) 一三・一

(基本給) 金四六万五〇〇〇円

(計算式) 四六万五〇〇〇円×一三・一=六〇九万一五〇〇円

(二) 株式代金 金一〇〇万円

原告西山は、平成四年四月一七日、被告会社に対し、同原告の保有する被告会社の株式二〇株を額面(一株五万円)で売り渡したので、右売買代金は、金一〇〇万円である。なお、その支払期は、売買契約の日である平成四年四月一七日である。

3  被告会社の請求原因(丙事件)

原告らは、被告会社の(代表)取締役在職中、共謀の上、被告会社の取締役会には一切上程せず、被告会社の取締役としての地位を利用し、アルツの利益のために被告会社を犠牲にして取締役としての違法行為を行い、被告会社に対し、次の損害を与えた。

(一) 資金投入による損害 金三四六五万四五三九円

<1> 原告らは、被告会社を借主として、訴外だいぎんファイナンス株式会社(以下、だいぎんファイナンスという。)から、昭和六三年五月三〇日に金二五〇〇万円、同年七月二九日に金一九〇〇万円をそれぞれ借り入れた。

原告らは、アルツ設立に当たり、昭和六三年七月二七日、訴外株式会社大阪農林会館(以下、大阪農林会館という。)から、被告会社が借主となって同会館ビルを賃借りし、これをアルツに転貸した。

大阪農林会館の賃借保証金は、金二五〇〇万円であったが、原告らは、だいぎんファイナンスからの前記借入金二五〇〇万円のうち、金六〇〇万円を右保証金の一部に充て、その余をアルツの設立・開業資金に充て、また前記借入金一九〇〇万円については、全額を右保証金の残金に充当した。

だいぎんファイナンスからの借入金は、被告会社において、毎月割賦返済していたが、原告らは、平成二年七月一三日、被告会社を借主として、訴外株式会社三菱銀行(以下、三菱銀行という。)から金三〇〇〇万円を借り入れ、同月一八日、だいぎんファイナンスに残債務合計二八四六万〇九六三円を一括して支払った。

右資金投入による被告会社の損害は、だいぎんファイナンスに対する元金二五〇〇万円とその支払利息三三二万一六九一円、同元金一九〇〇万円とその支払利息二三七万八七九八円、三菱銀行に対する支払利息四三一万三〇八七円、以上合計五四〇一万三五七六円から、三菱銀行からの借入金のうち被告会社の運転資金に回した一五三万九〇三七円を控除した五二四七万四五三九円である。

<2> 被告会社は、平成七年一二月二五日、大阪農林会館ビルを明け渡したが、その際、賃借保証金について、賃借期間一〇年未満の場合の減額六〇〇万円(賃貸借契約書六条、以下本件敷引特約という。)、消費税一八万円、及び原状回復費用一〇〇万円を控除した一七八二万円の返還を受けた。

そこで、<1>の損害額から右返還額を控除すると、被告会社の資金投入による損害額は、三四六五万四五三九円となる。

(二) 家賃等立替による損害 金二七〇万七八六七円

アルツは、大阪農林会館の家賃等合計二七〇万七八六七円(家賃・管理費につき、平成元年一一月分から同二年二月分まで毎月四六万九六〇〇円の四か月分、及び電気・ガス・水道料につき、平成元年一〇月分から同二年二月分まで合計八二万九四六七円)を滞納したまま、平成二年二月二五日に解散したので、被告は、これを立て替え、同額の損害を被った。

(三) コーヒーマシン等未払代金 金八六〇万一五三〇円

コーヒーマシン等の機械は、本来被告会社から直接顧客に販売すべきところ、原告らは、被告会社と顧客との中間にアルツを介在させる販売方式をとり、右販売方式により、被告会社は、アルツに対し、平成元年三月二〇日、コーヒーマシン(AMC一〇五B)一基を代金三一〇万〇三〇〇円で、同年八月二二日、コーヒーマシン(AMC一〇五B)一基、アイスクリームフリーザー(FB―4)、ホイッピングマシン(FTコンパクト)一基を代金五五〇万一二三〇円、以上合計八六〇万一五三〇円で販売し、アルツは、右代金全額を顧客から回収しているのに、これを被告会社に支払わないまま解散したので、被告会社は、同額の損害を被った。

(四) リース代金の債務引受による損害 金二八六〇万五九五五円

アルツは、開業に当たり、昭和六三年一〇月二〇日、内装工事代金につき、スミセイリース株式会社(以下、スミセイリースという。)との間に延払条件付売買契約を締結した。

しかし、その後アルツは、解散したことから、平成三年七月二四日、スミセイリース、アルツ及び被告会社の三者間で、被告会社において、アルツの契約上の地位を承継し、同社の債務を免責的に引き受ける旨の合意をした。これにより、被告会社は、スミセイリースに対し、割賦金残金二八六〇万五九五五円の債務を負担することとなり、同額の損害を被った。

(五) 最終損害 金六〇〇〇万〇二五七円

以上(一)ないし(四)の損害合計は、七四五六万九八九一円となるところ、原告中馬は、被告会社に対し、貸付金(不当利得金)一一五六万九六三四円の請求をしているが、これに対し、被告会社は、平成五年九月三日付け準備書面(同日陳述)により、本件損害賠償請求権をもって対当額で相殺する旨の意思表示をした。

また、仮に、原告らが南インターナショナルを退職する際、同会社から支給されるべき退職金(原告中馬について一二三万二五〇〇円、原告西山について五六万四四〇〇円)の支払義務を被告会社が承継するとしても、被告会社は、平成八年二月二三日付け準備書面(同日陳述)により、本件損害賠償債権をもって対当額で相殺する旨の意思表示をした。

さらに、後記のとおり、平成四年四月一七日、原告中馬は、被告会社の代表取締役である松下資雄(以下、松下という。)に対し、その保有する被告会社の株式四〇株を代金二〇〇万円で売渡し、原告西山も、松下に対し、その保有する被告会社の株式二〇株を代金一〇〇万円で売渡したが、同日、被告会社は、原告らから、右代金を本件損害賠償債務の填補として受領した。

そうすると、被告会社の原告らに対して有する損害賠償請求権の最終額は、金六〇〇〇万〇二五七円となる。

三  争点

一(ママ) 原告中馬の請求原因(乙事件)について

1  退職金・・・その存否が争点である。

(被告会社の主張)

原告中馬は、被告会社の設立に当たり、発起人代表となり、設立当初からの代表取締役であるから、定款の規定または株主総会による退職慰労金を支給する旨の決議がない限り、退職金請求権は発生しないところ、右の定款の規定や株主総会の決議は存在しない。

被告会社の退職金支給規定・退職年金規定は、従業員を対象とするものであり、代表取締役たる原告中馬に適用はない。

(原告中馬の主張)

仮に、原告中馬が被告会社に対し、被告会社在職中の期間における退職金の支給を受けられないとしても、同原告は、南インターナショナルから被告会社に移籍する際、南インターナショナルから受けるべき退職金一二三万二五〇〇円を返上しているので、被告会社は、右退職金を原告中馬に支払うべきである。

2  株式代金・・・その存否が争点である。

(被告会社の主張)

原告中馬は、平成四年四月一七日、同原告保有にかかる被告会社の株式四〇株を松下に代金二〇〇万円で売渡し、同日その代金を受領した。

(原告中馬の主張)

原告中馬は、右売買代金を受け取っておらず、平成四年四月一七日、被告会社から、その株式を松下に譲渡すること、その代金を原告らが被告会社に対して負っている損害賠償債務に充当することを一方的に通告された。

3  貸付金(不当利得金)・・・その存否が争点である。

(被告会社の主張)

仮に原告中馬主張のように、同原告から被告会社に対し、金一三五〇万円の貸付がなされたとしても、右行為は、取締役と会社間の利益相反行為(商法二六五条)であり、取締役会の承認が必要であるが、同原告は、取締役会を開催せず、独断で右貸付を行った。

右貸付が無効であり、原告中馬が被告会社に対し、同額の不当利得金返還請求権を有するとしても、被告会社は、前記のとおり、これに対し、本件損害賠償請求権をもって、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

二 原告西山の請求原因(甲事件)について

1  退職金・・・その存否が争点である。

(被告会社の主張)

原告西山は、被告会社の当初からの専務取締役であるから、定款の規定または株主総会による退職慰労金を支給する旨の決議がない限り、退職金請求権は発生しないところ、右の定款の規定や株主総会の決議は存在しない。

被告会社の退職金支給規定・退職年金規定は、従業員を対象とするものであり、専務取締役たる原告中馬(ママ)に適用はない。

(原告西山の主張)

原告西山は、名目的に被告会社の専務取締役の地位についていたが、その実質は従業員であった。

仮に、原告西山が被告会社に対し、被告会社在職中の期間における退職金の支給を受けられないとしても、同原告は、南インターナショナルから被告会社に移籍する際、南インターナショナルから受けるべき退職金五六万四四〇〇円を返上しているので、被告会社は、右退職金を原告中馬(ママ)に支払うべきである。

2  株式代金・・・その存否が争点である。

(被告会社の主張)

原告西山は、平成四年四月一七日、同原告保有にかかる被告会社の株式二〇株を松下に代金一〇〇万円で売渡し、同日その代金を受領した。

(原告西山の主張)

原告西山は、右売買代金を受け取っておらず、平成四年四月一七日、被告会社から、その株式を松下に譲渡すること、その代金を原告らが被告会社に対して負っている損害賠償債務に充当することを一方的に通告された。

三 被告会社の請求原因(丙事件)について・・・原告らの商法二六六条一項四号・五号に基づく責任の存否及び損害額が争点である。

(原告らの主張)

被告会社においては、取締役会は、全く機能しておらず、取締役会を開かないことが常態であったし、常勤の取締役は、原告らのみであるので、業務執行上、必要なときに取締役会を開催することは不可能なことであった。

また、被告会社は、東京本社のほかに神戸支社があるのみであるが、経営政策上、コーヒーマシンの売上を伸ばすために、モデルショップ形式のショールームを大阪市内につくることは、被告会社にとって必要かつ有意義なことであるから、仮に取締役会を開催していたとすれば、そのとおり可決されたものと考えられる。

原告らがアルツを設立したのは、当時南インターナショナルや被告会社の業績が極度に悪く、信用が悪化していたので連鎖倒産の危険から従業員を救うためであり、原告らは、被告会社のコーヒーマシンの売上を飛躍的に伸ばすとともに、英国の菓子スコーンを販売することによって被告会社や従業員の利益になると考えていたのであって、決して私利私欲を図ったものではない。

なお、原告らは、大阪にショールームを開設することにつき、被告会社の実質的支配株主である南泰吉の了承を得ている。

(一) 資金投入による損害中、だいぎんファイナンスからの借入金のうち二五〇〇万円は、全額大阪ショールームの賃借保証金に充当したが、一九〇〇万円は、被告会社が、東京晴海で開催されるホテルレストランショーで展示する機器を海外から買い付けるためのユーザンス(LC)決済資金として使用した。

また、三菱銀行から三〇〇〇万円を借り入れたのは、だいぎんファイナンスの金利が年七・五パーセントから八パーセントに値上げされたので、被告会社のため、より金利の安い三菱銀行から融資を受け、だいぎんファイナンスに一括返済したものである。

賃借保証金の敷引六〇〇万円については、大阪ショールームの閉鎖は、被告会社の経営判断によるものであるので、原告らにその責任はない。

(二) 家賃等立替による損害については、大阪ショールームは、一階部分は、被告会社の販売するコーヒーマシンを使用したモデルショップであり、二階部分は専ら被告会社の販売するコーヒーマシンの展示場として使用していた。大阪にショールームを開いたことにより、コーヒーマシンの売上は確実に伸びたが、予想に反し、喫茶店部門が不振であり、月に約一〇〇万円の赤字が累積していったので、原告らは、これ以上別会社として経営を続けていくことは得策ではないと判断し、平成二年二月にアルツを解散した。

アルツの経営が不振であったため、平成元年一一月一日以降、被告会社がもとの内装のままで、全面的に大阪ショールームとして使用するようになった。

(三) コーヒーマシン等未払代金については、被告会社が直接販売すべき商品をアルツを介在させ、同社が中間マージンを取得したことはない。

(四) リース代金の債務引受による損害については、被告会社が大阪ショールームとして使用するのであるから、その内装費を負担するのは当然のことである。

第三争点に対する判断

一  原告らの退職金請求(前記第二・二・1(一)及び同2(一))について

1  前記当事者間に争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 南インターナショナルは、神戸市に本店に(ママ)有し、南泰吉が代表取締役を勤める資本金四億円の会社であり、不動産売買・斡旋・管理・賃貸業ならびに経営、スイスのエグロ社製造にかかるコーヒーメーキングマシンの輸入・販売等を営業目的としていた。

原告中馬は昭和五三年四月三日に、原告西山は同五四年八月一日に南インターナショナルに入社し、原告中馬は神戸本社において貿易部長を務め、原告西山は同社の東京支社(貿易部)において、コーヒーメーキングマシンのメンテナンス等の業務に従事していた。

(二) 南インターナショナルは、昭和六〇年頃に経営不振となり、コーヒーメーキングマシンの輸入・販売部門である貿易部を独立させることとし、昭和六〇年四月一七日、コーヒー機械の輸出入販売等を目的とする被告会社を設立し、原告中馬が代表取締役に、原告西山、南泰吉、同人の長男でパリ在住の南春人、スイス在住のオットー・ニーダーハウザー、南泰吉の知人である中西成忠が取締役に、湖上亢が監査役に就任した。右役員のうち、常勤は、代表取締役である原告中馬と専務取締役である原告西山の二人であった。

被告会社の資本金は、二〇〇〇万円(四〇〇株)であるが、原告中馬は四〇株、原告西山は一〇株を有するのみであり、中西成忠が一〇〇株、湖上亢が二三五株を有し、同人が筆頭株主であるが、右湖上の株式は、実質的には南泰吉の保有するものであった。

南インターナショナルは、被告会社の設立に当たり、昭和六〇年三月三一日株主総会を開催し、エグロコーヒー部門の営業権を被告会社に譲渡する件を承認可決した。同日、南インターナショナルと被告会社は、資産譲渡契約書(<証拠略>)を締結し、南インターナショナルは、エグロ社の商品営業権八四〇〇万円を含めた同社のコーヒー部門の資産を、代金一億八七〇六万九五六三円で譲渡し、被告会社は、南インターナショナルに対し、右代金を昭和六〇年六月三〇日から同六七年五月三一日まで当初一年間は、毎月一〇〇万円、二年め以降は毎月二〇〇万円(但し、後に毎月一〇〇万円に減額された。)宛延払いする旨約した。

(三) 被告会社は、肩書地に本店、神戸市に支店を有し、原告らを含め、南インターナショナル貿易部の従業員二二名(神戸支店八名、東京本店一四名)がそのまま被告会社に移籍した。

しかし、このとき、南インターナショナルから右移籍した従業員らに退職金は支払われず、被告会社の退職年金規定(<証拠略>)一九条において、勤続年数は、南インターナショナルに勤務していた期間を通算して支給するものとされた。

(四) 被告会社は、発足後、順調に業績を伸ばしていたが、原告らは、昭和六三年八月二五日、南泰吉に秘密裡に、原告西山を代表取締役としてアルツを設立し、大阪市内で喫茶店及びコーヒーマシンのショールームを開業した。

しかし、アルツは、喫茶店部門の営業が不振であり、平成元年一〇月頃に喫茶店営業を閉鎖し、同二年二月二五日、解散した。

(五) 原告中馬は、平成三年一〇月頃、南泰吉に被告会社経営のため資金援助の申し出をしたが、これを契機として被告会社の財務状況が調査され、南泰吉にアルツの設立・営業の事実が発覚した。

その結果、原告西山が平成三年一一月二二日に被告会社の取締役を辞任したのに続き、原告中馬も同四年三月二六日に開催された被告会社の臨時株主総会で(代表)取締役辞任を申出、了承された。

そして、原告中馬は同年四月一〇日、原告西山は同年五月二〇日、それぞれ被告会社を退職した。

(六) 被告会社は、原告らの退職後、原告らを被告会社の代理店として活動させることとしていたが、原告らは、これを拒み、同年五月六日、川崎市に本店を有し、コーヒー器具・機械の設計・製造・販売、厨房機器の輸入・設計・製造・販売等を営業目的とするユーロ・テック株式会社を設立(代表取締役は原告西山)し、これを経営している。

その後、原告らは、平成五年三月一六日(翌一七日到達)、原告ら代理人弁護士を通じ、被告会社に対し、退職金の支払を求める書面を発した。

2  右認定したとおり、原告らは、被告会社に在職中、原告中馬は代表取締役社長、原告西山は専務取締役として、いずれも中心的に被告会社の経営を担っていたものであるところ、被告会社の定款(<証拠略>)の規定には、取締役の退職慰労金に関する規定はなく、これを支給するには、株主総会の決議を要する(商法二六九条)と考えられるが、右決議の存在を認めるに足りる証拠はないから、原告らに退職慰労金請求権は発生しないというべきである。

原告らは、被告会社設立当初から職務に専念し、業績拡大のため多大の寄与をなしたから、株主総会において相当の退職慰労金を支給すべき義務があると主張するが、被告会社にそのような義務があると認めることもできないから、右主張を採用しない。

3  原告西山は、専務取締役の地位は名目的なものであり、実質的には従業員であったと主張するが、被告会社の退職年金規定(<証拠略>)二条には、「退職年金制度は、役員を除いた従業員に対して適用する。」旨規定されているところ、同原告は、被告会社において、ただ二名の常勤取締役のうちの一人(もう一人は原告中馬)であり、アルツ設立に際しては、同社の代表取締役に就任するなど、被告会社の経営に当たって中心的役割を果たしていたと認められること、取締役の報酬は、株主総会において総枠が定められるが、原告の月額報酬は、原告ら自身で決定しており、原告西山に対する総支給月額は、昭和六一年一月は四一万五〇〇〇円、同年二月から六月まで四六万五〇〇〇円、同年七月から同六二年四月まで七〇万円、同年五月から同六三年四月まで八五万円、同年五月から平成三年一月まで九五万円、同年二月から同年一〇月まで九〇万円、同年一一月及び一二月は四六万五〇〇〇円、同四年一月から同年五月まで五〇万五〇〇〇円であり、原告中馬(昭和六三年五月から平成三年一〇月まで一二五万円)に次ぐ多額のものであったこと、なお原告西山の雇用保険料控除は平成四年一月以降であることに照らせば、原告西山は、被告会社の退職金規定・退職年金規定にいう「従業員」には当たらないというべきである。

4  しかしながら、原告らが南インターナショナルに在職していた期間中の退職金については、原告らは、同社の従業員としてその受給権を有するというべきところ、原告らは、昭和六〇年五月一日、南インターナショナルから被告会社に移籍したが、その際、南インターナショナル、被告会社及び原告らの三者間において、右期間中の原告中馬の退職金一二三万二五〇〇円、原告西山の退職金五六万四四〇〇円については、原告らが被告会社を退職するとき、被告会社においてこれを支払う旨約されたと認めるべきである。

そして、右各退職金の支払期は、原告らの支払催告書が被告会社に到達した平成五年三月一七日であると認めるのが相当である。

二  原告らの株式代金請求(前記第二・二・1(二)及び同2(二))について

本件全証拠によるも、原告らが、平成四年四月一七日、被告会社に対し、原告らの保有する被告会社の株式を額面代金で売渡したとの事実を認めるに足りない。

かえって、証拠(<証拠・人証略>)によれば、平成四年四月一七日、原告中馬は、被告会社の代表取締役である松下に対し、その保有する被告会社の株式四〇株を代金二〇〇万円で売渡し、原告西山も松下に対し、その保有する被告会社の株式二〇株を代金一〇〇万円で売渡し、同日、原告らは右代金を受領したが、原告らは、直ちに、右代金を被告会社に対する本件損害賠償債務の填補に充てたことが認められる。この認定に反する原告らの供述は採用しない。

三  原告中馬の貸付金(不当利得金)請求(前記第二・二・1(三))について

1  証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告中馬は、平成二年三月六日、訴外株式会社第一勧業銀行(以下、第一勧銀という。)渋谷支店から、金一七〇〇万円を、利息年七・五パーセント、損害金年一四パーセント、平成二年三月から同一二年二月(一二〇回)まで毎月二七日限り、金二〇万一七九二円宛(ただし、初回は一七万二三六一円)、割賦金の支払を一回でも怠ると、期限の利益を喪失し、残元金を一時に支払う、旨の約定で借り受けたこと、同原告は、平成二年三月六日、被告会社に対し、金一三五〇円(ママ)を右約定と同一の条件で貸し付けたこと、ところが、被告会社は、平成三年一一月二七日の支払を最後にその後割賦金の支払をしておらず、残債務は、金一一五六万九六三四円となっていること、以上の事実が認められる。

2  しかしながら、取締役の会社に対する金銭貸付については、利息付の場合は、会社の利益を害するおそれがあるから、取締役会の承認を要すると解すべきところ(商法二六五条)、本件において右貸付につき取締役会の承認を得た事実を認めるに足りる証拠はないので、右貸付は無効であるというべきである。

3  本件貸付が無効であるとしても、被告会社は、原告中馬の出捐により、右貸付残額と同額の一一五六万九六三四円を法律上の原因なく利得していると認められるので、その返還義務を負っているというべきである。

四  被告会社の損害賠償請求(前記第二・三)について

1  前記当事者間に争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告会社において、東京の本店・ショールーム、神戸支店のほか、大阪にショールームを設置し、集客力の向上を図ることは、設立以来の懸案であったが、原告中馬は、南泰吉に大阪ショールーム開設について相談を持ちかけた上、遅くとも昭和六三年五月頃には、大阪ショールームを店舗(喫茶店)形式とすること、及び別会社アルツを設立して運営することを決定し、同年八月一日、アルツの発起人会を開催し、定款を定めた。右発起人は、原告西山、正井糺、荒木英二、山本康弘、三浦健次郎、芦田登志行、小久保卓であり、発行株式二〇〇株(一〇〇〇万円)中、原告中馬が荒木英二名義で六〇株(三〇〇万円)を、原告西山及び正井も同額を出資した。山本は被告会社神戸支店長、芦田は被告会社(南インターナショナルも兼務)の経理課長を務めるなど、正井以外はいずれも被告会社ないし南インターナショナルの関係者である。正井は、店舗の運営を担当する者として迎え入れられた。なお、原告らは、アルツ設立については、南泰吉の了承を得てはいなかった。

アルツは、昭和六三年八月二五日、厨房機器の輸入販売、飲食店の経営ならびにコンサルティング、スコーン(洋菓子)の製造・加工及び販売等を目的として設立され、原告西山と正井が代表取締役に就任し、発起人のうちから、正井、荒木、山本、芦田、小久保が取締役に、三浦が監査役に就任した。

(二) 被告会社は、昭和六三年七月二七日、株式会社大阪農林会館から大阪農林会館ビル一階約七七・二九平方メートル(専用部分は六四・四五平方メートル)を、喫茶店舗ならびにコーヒーマシンのオフィスショールームとする目的で賃借りした。保証金は二五〇〇万円、賃料は月額三九万七四六〇円、管理料は同五万八四五〇円、期間は昭和六五年七月三一日まで(更新可)であり、保証金については賃貸期間が一〇年未満の場合は一九〇〇万円を返還する約定(本件敷引特約)である。

被告会社は、右大阪農林会館をアルツに転貸し、アルツは、喫茶店とコーヒーマシンのショールームの営業を開始した。

被告会社とアルツは、昭和六三年一一月二〇日、右保証金二五〇〇万円について、被告会社のアルツに対する貸付金とし、アルツは、被告会社に対し、昭和六五年四月から毎月五〇万円を返済する旨約し、正井、芦田及び小久保がアルツの債務の連帯保証人となった。

また、被告会社とアルツは、昭和六三年八月二五日、エグロ社製コーヒーメーキングマシン、スイスのオッツ社製アイスクリームフリーザー、同クンツ社製ホイップクリームメーカーの販売代理店契約を締結し、被告会社のアルツに対する仕切価格及びアルツの顧客に対する販売価格(仕切価格の七〇ないし七五パーセント)を設定した。

(三) 被告会社は、だいぎんファイナンスから、昭和六三年五月三〇日に二五〇〇万円、同年七月二九日に一九〇〇万円を借り入れた。

右のうち、前者(二五〇〇万円)の借入金の内金六〇〇万円と後者(一九〇〇万円)の借入金については、大阪農林会館の賃借保証金に充てられるなど、アルツの開業資金に使用されたことが明らかであるが、前者(二五〇〇万円)の借入金の残金一九〇〇万円がアルツの開業・運営資金に充てられたかどうかは明らかでない。

大阪ショールームの内装費については、アルツは、昭和六三年一〇月二〇日、スミセイ・リースとの間に延払条件付売買契約を締結し、毎月、約三五万円を返済していた。

(四) アルツの経営は、ショールーム部門の営業は順調であったが、喫茶店部門の営業が不振であり、毎月約一〇〇万円の赤字が累積し、平成元年一〇月、正井は、アルツの代表取締役を辞任し、出社しなくなった。

そして、平成二年二月二五日、アルツは解散した。

(五) 平成二年二月一三日、だいぎんファイナンスからの借入金利が年七・五パーセントから八パーセントに値上げされたため、被告会社は、同年七月一三日、三菱銀行から三〇〇〇万円を借り入れ、同月一八日、だいぎんファイナンスに対する前記借入金残債務合計二八四六万〇九六三円を一括返済した。

また、平成三年七月二四日、被告会社とアルツ及びスミセイ・リースの三者は、被告会社において、アルツの前記延払条件付売買契約における買主たる地位を承継し、アルツの債務を免責的に引受けることとし、被告会社は、スミセイ・リースに対し、平成三年七月から同九年六月まで(七二回)、毎月三九万七三〇〇円宛(但し、初回は三九万七六五五円)、合計二八六〇万五九五五円を割賦返済する旨を約した。

(六) 原告中馬は、平成三年一〇月頃、南泰吉に資金援助の申し出をしたことから、これを契機として被告会社の財務状況が調査され、南泰吉にアルツの設立・営業の事実が発覚した。

原告両名は、南泰吉の追及を受け、平成三年一一月二九日、同人のいうままに、「アルツの設立・清算により、被告会社に多大の迷惑をかけたことを詫びる」旨の始末書(<証拠略>)、及び「五〇〇万円を限度として損害賠償をする」旨の借用証(<証拠略>)を作成・提出した。

そして、原告西山が平成三年一一月二二日に被告会社の取締役を辞任したのに続き、原告中馬も同四年三月二六日に開催された被告会社の臨時株主総会で(代表)取締役辞任を申出、了承された。同株主総会では、原告中馬は、「自らの管理不行届により派生した重大事態に鑑み、金銭的負担を含めた責務を負い、このための念書を差し入れる。」旨述べた。また、同株主総会では、出席者から、その時点で判明している被告会社の損害金補填のために原告中馬の私財提供を求める発言がなされ、これが了承されている。

そして、原告中馬は同年四月一〇日、原告西山は同年五月二〇日、それぞれ被告会社を退職した。

なお、前記山本康弘も、平成三年一一月三〇日、始末書を提出し、退職金を放棄する旨の念書を作成・提出した。

平成四年四月一七日、原告らは、その保有する被告会社の株式(原告中馬について四〇株、原告西山について二〇株)を松下に対して額面で売渡し、原告らは、その代金(原告中馬について二〇〇万円、原告西山について一〇〇万円)を受領したが、原告らは、直ちに、被告会社に対し、右代金を本件損害賠償債務の填補として充当した。

(七) 被告会社は、アルツ解散後も引き続き、大阪ショールームを使用していたが、平成七年一二月二五日をもって、大阪農林会館の賃貸借契約を解約し、同会館を明け渡した。

但し、被告会社と大阪農林会館との間で、賃借保証金から控除されるのは、原状回復工事費用の一〇〇万円のみとすることが合意された。

2  右認定事実によれば、原告らは、アルツの設立(昭和六三年八月二五日)から解散(平成二年二月二五日)までの期間、被告会社の(代表)取締役でありながら、原告西山はアルツの代表取締役、原告中馬は取締役(但し、荒木英二名義)として、被告会社とアルツ間の利益相反取引に関わったものであるから、右取引は、商法二六五条の自己取引に該当するというべきである。

原告らは、自己取引を行うについて被告会社取締役会の承認を得ておらず、法令違反の行為として商法二六六条一項五号の(無過失)責任を負う(取締役の承認を得たときでも同法一項四号の責任を負う)。

3  原告らは、「被告会社においては、取締役会は、全く機能しておらず、取締役会を開かないことが常態であったし、常勤の取締役は、原告らのみであるので、業務執行上、必要なときに取締役会を開催することは不可能であった。」と主張するが、被告会社の取締役らの状況が前記第三・一・1(二)のとおりであったとしても、取締役会を開くことが不可能とはいえず、その承認を得ないことの理由とはならない。

また、原告らは、「モデルショップ形式のショールームを大阪市内につくることは、被告会社にとって必要かつ有意義であり、アルツを設立したのは、南インターナショナルや被告会社の業績が極度に悪く、信用が悪化していたので連鎖倒産の危険から従業員を救うためであった。」などと主張するが、利益相反取引について取締役会の承認を得ないことの理由とはならない。かえって、前記1の事実関係の下では、原告らのアルツ設立の意図は、被告会社の犠牲の下に、南インターナショナルの束縛を離れ、自らの意のままにコーヒーマシンの販売事業を行おうとするにあったと窺われ、単なる原告らの経営上の判断ミスと認めることはできない。

4  次に、被告会社に生じた損害について検討する。

(一) 資金投入による損害 金九七二万〇三六七円

被告会社のだいぎんファイナンスからの昭和六三年五月三〇日の二五〇〇万円の借入金の内金六〇〇万円と、同年七月二九日の借入金一九〇〇万円については、これがアルツの開業資金に充てられたことが明らかである。そこで、前者(二五〇〇万円)の借入金について、昭和六三年六月二一日から、アルツの存在した平成二年二月二一日までの割賦返済金合計一〇四七万七七六七円の二五〇〇分の六〇〇である二五一万四六六四円(円未満切捨て)と、後者(一九〇〇万円)の借入金について、昭和六三年八月二一日から、右同様平成二年二月二一日までの割賦返済金合計七二〇万五七〇三円、以上合計九七二万〇三六七円をもって、損害と認める。

右以降の(割賦)返済については、被告会社において、その経営判断により、アルツ解散後も大阪ショールームの運営を継続している以上、これを被告会社に生じた損害と認めることはできない。

だいぎんファイナンスからの昭和六三年五月三〇日の借入金の残金一九〇〇万円については、アルツ開業・運営資金に使用されたと認めることはできないので、これを損害と認めることはできない。

三菱銀行からの平成二年七月一三日の借入金三〇〇〇万円については、被告会社の経営上の判断に基づくものと認められるので、これを損害と認めることはできない。

(二) 家賃等立替による損害 金一五六万四九九二円

証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告会社は、平成元年一一月分から同二年二月までの大阪農林会館の家賃・光熱費等合計二〇八万六六五七円をアルツに代わって立替えているが、そのうちショールーム部門(被告会社使用)と喫茶店部門(アルツ使用)の使用面積比一対三に対応する一五六万四九九二円(円未満切捨て)をもって損害と認める。

原告らは、平成元年一一月以降、喫茶店部門も被告会社が使用した旨主張するが、その頃からアルツに正井が出社しなくなったというにすぎず、同社解散に至るまで、同社が占有使用していたと認めるべきである。

(三) コーヒーマシン等未払代金 金八六〇万一五三〇円

アルツは、前記のとおり、被告会社との間にコーヒーマシン等の販売代理店契約を締結し、証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告会社は、アルツに対し、平成元年三月二〇日、コーヒーマシン(AMC一〇五B)一基を代金三一〇万円で、同年八月二二日、コーヒーマシン(AMC一〇五B)一基、アイスクリームフリーザー(FB―4)、ホイッピングマシン(FTコンパクト)一基を代金五五〇万一二三〇円、以上合計八六〇万一五三〇円(仕切価格)で販売し、アルツは、右代金全額を顧客から回収したが、被告会社に支払わないまま解散したので、これを損害と認める。

(四) リース代金の債務引受による損害 〇円

前記第三・四・1(五)のとおり、被告会社は、平成三年七月二四日、アルツのスミセイリースに対する内装費の延払条件付売買契約上の地位を承継し、アルツの割賦残債務二八六〇万五九五五円を免責的に引き受ける旨の契約を締結したが、右契約は、アルツの解散後も大阪ショールームを存続させようとの被告会社の経営判断によるものと認められるので、これを損害ということはできない。

(五) 最終損害 金五三一万七二五五円

以上(一)ないし(五)の損害合計は、一九八八万六八八九円となるが、被告会社は、平成五年九月三日付け準備書面(同日の第三回口頭弁論期日で陳述)により、右損害賠償請求権をもって、原告中馬が被告会社に対して有する前記第三・三の一一五六万九六三四円の不当利得返還請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたので、残損害は、八三一万七二五五円となる。

なお、原告らは、前記第三・四・1(六)のとおり、平成三年一一月二九日、被告会社に対し、各金五〇〇万円を限度として損害賠償をする旨の借用証を作成・提出しているが、被告会社は、その後も原告らに対し、損害賠償を追加して求めているから、右事実をもって、原告らと被告会社間に損害額を各金五〇〇万円に限定する旨の合意が成立したものとみるべきではないと考える。

また、前記第三・二のとおり、原告らは、平成四年四月一七日、被告会社の株式代金(原告中馬について二〇〇万円、原告西山について一〇〇万円、合計三〇〇万円)をもって、本件損害賠償債務に填補・充当したと認められるので、残損害は、五三一万七二五五円となる。

なお、被告会社は、本件損害賠償債権をもって、原告らの被告会社に対する退職金債権と相殺した旨主張するが、退職金は、賃金の後払いとしての性質も有するから、賃金全額払いの原則により、相殺は許されないと解するのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告中馬の請求については、退職金一二三万二五〇〇円及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

原告西山の請求については、退職金五六万四四〇〇円及び右同様平成五年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

被告会社の請求については、原告らに対し、連帯して損害賠償金五三一万七二五五円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成五年一一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田肇)

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